高市政権下で「1ドル160円」は通過点か、それとも天井か

2026年、私たちトレーダーが直面しているマーケットは、これまでの常識が通用しない「歪んだ相場」です。かつてのアベノミクス初期に感じた高揚感とは違う、どこかヒリヒリするような緊張感が漂っています。「ニュー・アベノミクス」とも称される高市早苗氏の経済政策がいよいよ本格始動する中、為替市場ではドル円の適正水準が見えなくなっています。

多くのトレーダーが「積極財政=円安」という単純な図式で買い向かう中、私はあえて警鐘を鳴らしたい。今の相場で真に見るべきは、日米の金利差チャートではありません。永田町の「内閣支持率」と、スーパーマーケットの「値上げ棚」です。

なぜなら、2026年の円相場を動かすドライバーは、経済合理性ではなく「政治的耐久力」に変質してしまったからです。本記事では、教科書的なファンダメンタルズ分析を一旦脇に置き、**「政局×為替」**という、今年特有の泥臭い、しかし最も利益に直結するシナリオを4000字のボリュームで徹底的に深掘りします。

高市トレードの本質:「金利差」から「国家の信用」への変質

これまでのFX市場において、円安の理由はシンプルでした。「アメリカの金利が高く、日本の金利が低いから、円を売ってドルを買う」。これだけです。しかし、高市政権下での現在の円売りは、もう少し深刻で、構造的な性質を帯びています。それは**「財政ファイナンス」への警戒感**です。

「危機管理投資」という大義名分と財源の矛盾

高市首相が掲げる「危機管理投資」。国防、エネルギー、食料安全保障、そしてサイバーセキュリティへの巨額投資。これらは不安定な世界情勢を考えれば、国家として絶対に必要な施策でしょう。これに異を唱えるトレーダーはいません。しかし、相場の世界で問題になるのは、常に「そのカネをどこから持ってくるか」です。

増税を嫌い、国債発行で賄う姿勢を鮮明にしている現政権に対し、債券市場(JGB)は静かに、しかし確実に拒絶反応を示し始めています。本来、国債が増発されれば需給が悪化し、国債価格は下落、つまり金利は上昇するはずです。金利が上がれば、本来は通貨(円)にとってプラス材料になることもあります。

しかし、ここに高市政権特有の「日銀へのハト派圧力」が加わることで、事態は複雑化します。「借金の利払い費が増えるから利上げは困る」「経済成長が軌道に乗るまで金融引き締めは時期尚早だ」という政治的要請が、日銀の金融正常化の手を縛り続けています。

この**「政府がアクセルを全開にし(財政出動)、日銀にブレーキを踏ませない(緩和強要)」**という歪な構造こそが、今の止まらない円安トレンドの正体です。

海外勢が見ている「トラス・ショック」の幻影

ロンドンやニューヨークのヘッジファンド勢と話をすると、彼らが今の日本に重ね合わせているのは、2022年にイギリスで起きた「トラス・ショック」です。当時のトラス政権は、裏付けのない大型減税(財政悪化)を打ち出し、結果として通貨ポンドの暴落と債券安(金利急騰)の「トリプル安」を招きました。

今の日本市場で彼らが警戒しているのも、まさにこの**「フィスカ・ドミナンス(財政優位)」**です。フィスカ・ドミナンスとは、中央銀行が物価安定(インフレ抑制)よりも、政府の借金維持を優先せざるを得なくなる状態を指します。

2026年の日本がこの状態に陥ったとマーケットが判断した場合、起きるのはキャリートレードのような生ぬるい「円売り」ではありません。「日本脱出(キャピタルフライト)」としての円売りです。金利差が縮小しようが、米国の利下げが始まろうが、信用不安による円売りは止まりません。私たちが今、チャートの向こう側に感じている違和感は、この「国家の信用リスク」を織り込み始めている音なのです。

支持率という名の「円安防衛ライン」のパラドックス

ここからが本記事の核心部分です。通常、輸出企業にとって有利な円安は株高を招き、それが政権支持率を支える要因でした。アベノミクスの成功体験がまさにそれです。しかし、2026年の状況は180度転換しています。

「悪い円安」と支持率の逆相関メカニズム

原材料高とエネルギー価格の高騰、そして何より食料品価格の上昇が国民生活を直撃している今、**「円安=悪」という世論がかつてないほど高まっています。**ワイドショーでは連日「円安の弊害」が叫ばれ、SNSでは値上げに対する悲鳴が溢れています。

ここで興味深い政治的なパラドックスが発生します。 高市首相は、本音では積極財政(=円安要因)を推し進めたい。しかし、それによって円安が進みすぎると、輸入物価が上昇し、コア支持層である一般国民や保守層の生活が苦しくなり、支持率が急落する。

つまり、政権支持率が、為替レートの「ストッパー」として機能するという新しいメカニズムが生まれているのです。2026年のトレードでは、日銀総裁の発言よりも、内閣支持率の増減のほうが為替レートにダイレクトに響く場面が増えるでしょう。

シナリオA:支持率40%維持の「ゴルディロックス円安」

もし内閣支持率が40%台で安定している場合、政権は強気姿勢を崩しません。

  • 財政出動: 予定通り大規模に継続
  • 日銀への圧力: 暗に緩和継続を要求
  • 為替: ジリジリとした円安(1ドル155円〜160円レンジ)

この場合、我々トレーダーは「押し目買い」戦略が正解となります。多少の口先介入(財務官による「緊張感を持って注視」など)があっても、それはガス抜きに過ぎません。実弾(為替介入)や政策変更がない限り、トレンドは上方向です。このフェーズでは、スワップポイント狙いのロングポジションが最も効率的に機能します。

シナリオB:支持率30%割れの「パニック・ピボット」

最も警戒すべき、そして最も大きなチャンスとなるのが、円安によるインフレで支持率が危険水域(30%割れ、いわゆる青木の法則における危険ライン)に突入した時です。ここで政権は、自らの生き残りをかけて「ちゃぶ台返し」を行うリスクがあります。

これを私は**「高市ピボット(政策転換)」**と呼んで警戒しています。 今まで「緩和継続」を唱えていた首相が、突然:

  • 「日銀の独立性を尊重する(=利上げ容認)」と発言を修正
  • 財務省主導による大規模な為替介入を許可
  • 一時的な財政規律(プライマリーバランス)への言及

これらが起きると、マーケットに積み上がった膨大な円ショート(売りポジション)が一気に巻き戻されます。AIアルゴリズムがヘッドラインに反応し、数日で10円幅の暴落(円高)が起きる可能性があります。2026年のトレードで退場者が出るとすれば、間違いなくこの「政治的損切り」のタイミングです。ロングポジションを握りしめて「いつか戻る」と祈ることは、この局面では死を意味します。

「160円の壁」を超えた先にある未踏の世界

では、具体的にどの水準がトリガーになるのか。多くの機関投資家やマーケット参加者は、心理的節目である**「1ドル=160円」**を最終防衛ラインと見ていますが、もしここを突破したらどうなるのでしょうか。

1986年以来の真空地帯でのプライスアクション

もし160円を明確に上抜けて、日足ベースで定着した場合、テクニカル的な節目は1986年の高値である163円近辺まで真空地帯となります。「真空地帯」とは、過去に取引された価格帯がないため、抵抗帯が存在せず、価格が走りやすい状態を指します。

ここでは、以下のような「負の連鎖反応」が予想されます。

  1. 輸入企業のパニックヘッジ: 「170円、180円まで行くかもしれない」と恐怖した輸入企業が、向こう1年分のドル調達を一気に行うため、実需の猛烈な円売りが発生します。これは投機筋と違って反対売買を行わないため、相場を底上げします。
  2. 海外勢の日本国債ショート: 円安によるインフレ加速を見越して、JGB(日本国債)先物が売られ、金利が急騰します。
  3. 日銀のYCC的な買いオペ再開のジレンマ: 金利急騰を抑えるために日銀が国債を買い支えれば、市場に円が溢れ、さらなる円安を招く。しかし買い支えなければ金利が暴騰し、地銀や企業のバランスシートが毀損する。このジレンマを見透かされ、円売りが加速します。

このスパイラルに入ると、単独の為替介入では「焼け石に水」です。国際協調介入の可能性も囁かれますが、米国がインフレ再燃を懸念している2026年の状況下で、ドル安を招く協調介入に合意するかは極めて不透明です。

生活実感としての「160円」

1ドル160円の世界は、私たちの生活様式をも変えます。海外旅行は高嶺の花となり、iPhoneの価格はさらに跳ね上がり、スーパーの食料品は毎月値上げされる。この「痛み」が国民の怒りとなって沸点に達した時こそが、相場の本当の転換点(クライマックス)になります。

トレーダーとして冷徹に見れば、「国民の悲鳴がピークに達し、ワイドショーが円安批判一色になった瞬間」こそが、ドルの天井なのです。相場は常に、大衆が諦めた瞬間に反転します。2026年のドル円の天井は、テクニカルチャートのRSIやボリンジャーバンドではなく、世論の熱狂度合いによって形成されるでしょう。

2026年、個人トレーダーが取るべき具体的な生存戦略

このような政治主導の相場で生き残り、利益を上げるために、私たちは日々のトレードで何を意識すべきか。具体的なアクションプランを提示します。

1. ニュースソースの再定義:世論調査を指標にする

週末はチャートを見る時間を減らし、主要メディア(読売、朝日、日経、共同通信)の世論調査の結果をチェックしてください。特に注目すべき項目は2つです。

  • 内閣支持率の推移: 前月比で5ポイント以上の急落がないか。
  • 「物価高への対応」への評価: 「評価しない」の割合が70〜80%を超えてくると、政権内部で政策変更の議論が始まります。

支持率低下のニュースが出た週の月曜日は、円高方向への窓開けや、上値の重さを警戒すべきです。逆に言えば、支持率が堅調なうちは、円安トレンドフォローが最も勝率の高い戦略となります。

2. テクニカル分析の「ダマシ」を政治でフィルターする

2026年は、純粋なテクニカル分析が効きにくい年になります。例えば、チャート上で「ダブルトップ」を形成して売りシグナルが出ても、その裏で政府が補正予算(財政出動)を決定すれば、シグナルは簡単に否定され、踏み上げ(ショートカバー)が発生します。

テクニカル指標でエントリーポイントを探ることは重要ですが、その前提となる「環境認識」において、常に政治スケジュール(国会会期、選挙の噂、G7などの国際会議)を優先させてください。「チャートは嘘をつかない」と言われますが、政治家は平気で嘘をつきますし、その嘘でチャートは動きます。

3. 「日本株」と「円」の相関ズレ(デカップリング)を監視する

これまでは「円安=日本株高」が定石でしたが、この相関が崩れる瞬間を逃さないでください。 もし**「円安が進んでいるのに、日経平均が大きく下落している」**という日が2〜3日続いたら、それは危険信号です。これは海外投資家が「日本市場そのもの」を見限り始めているサイン(日本売り)だからです。

この現象(悪い円安と株安の同時進行)が起きた場合、為替は円安方向にオーバーシュート(行き過ぎ)しやすくなりますが、その後の反動も強烈です。この局面では、クロス円(ユーロ円やポンド円)よりも、ドル円のストレートな売買に絞るほうがリスク管理しやすくなります。

まとめ:政治に振り回されず、政治を利用する側へ

2026年のFX市場において、「高市政権だから円安だ」という思考停止は、資産を減らす一番の原因になります。

確かに政策のベクトルは円安方向ですが、そこには「国民生活」という強力な重力が働いています。積極財政派の首相が、自らの政治生命を守るために「あえて円高政策を受け入れる」、あるいは「市場の反乱によって修正を余儀なくされる」。その瞬間に発生する巨大なエネルギーこそが、今年最大の利益機会です。

私たちトレーダーは、政治家の信条を支持・批判する必要はありません。ただ、彼らの動きが市場に歪みを生み出し、その歪みが修正されるタイミングを淡々と狙うだけです。ニュースで「高市首相」の名前を見るたびに、その裏にある支持率の数字と、国債市場のきな臭い動きに神経を研ぎ澄ませてください。2026年の勝機は、チャートの右端ではなく、永田町の空気感の中に潜んでいます。